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岡山地方裁判所 昭和55年(ワ)404号 判決

第一一五号事件 第四〇四号事件原告 第五九七号事件反訴被告 岡野栄太郎

第一一五号事件被告 第五九七号事件反訴原告 興除農業協同組合

第四〇四号事件被告 山下役平 外二名

主文

一  被告山下役平、同馬塩滋臣、同大橋正昇は原告に対し、連帯して六〇万円及びこれに対する被告山下役平、同大橋正昇については昭和五五年六月一九日から、被告馬塩滋臣については同月二〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は被告興除農業協同組合に対し、二八万円及びこれに対する昭和四八年一二月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告山下役平、同馬塩滋臣、同大橋正昇に対するその余の請求、及び被告興除農業協同組合に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用については、うち昭和五三年(ワ)第一一五号事件及び昭和五六年(ワ)第五九七号事件について生じた費用はすべて原告の負担とし、うち昭和五五年(ワ)第四〇四号事件について生じた費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告山下役平、同馬塩滋臣、同大橋正昇の各負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(昭和五三年(ワ)第一一五号事件)

一  請求の趣旨

1  被告興除農業協同組合(以下「被告組合」という。)は原告に対し、二一三五万五〇四〇円及びうち二二八万二二四〇円に対する昭和五四年四月一日から、うち四二三万〇三〇〇円に対する昭和五四年四月一日から、うち四六〇万六〇〇〇円に対する昭和五五年四月一日から、うち五二三万六五〇〇円に対する昭和五六年一月一日から、うち五〇〇万円に対する昭和五八年二月二四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告組合の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(昭和五六年(ワ)第五九七号事件)

一  請求の趣旨

1  主文第二項と同じ

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告組合の請求を棄却する。

2  反訴について生じた費用は被告組合の負担とする。

(昭和五五年(ワ)第四〇四号事件)

一  請求の趣旨

1  被告山下役平(以下「被告山下」という。)、同馬塩滋臣(以下「被告馬塩」という。)、同大橋正昇(以下「被告大橋」という。)は原告に対し、連帯して二〇〇万円及びこれに対する被告山下、同大橋については昭和五五年六月一九日から、被告馬塩については同月二〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告山下、同馬塩、同大橋は原告に対し、連帯して、山陽新聞の朝刊第一七面(岡山市民版)に、「陳謝」の二字は一四ポゴチツク活字、右被告三名及び原告の名は一二ポゴチツク活字、その余は一九ポゴチツク活字で別紙二のとおりの謝罪文を掲載広告せよ。

3  訴訟費用は被告山下、同馬塩、同大橋の負担とする。

4  仮執行の宣言(1につき)

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(昭和五三年(ワ)第一一五号事件)

一  請求原因

1  原告は、昭和四九年五月、被告組合に参事として雇用された。

2  被告組合は、昭和五二年九月二一日、原告に対し「昭和五二年九月二〇日開催の理事会決議により参事を解き職員を免ずる」との辞令を交付した。

3  しかしながら、右の解雇の告知(以下「本件解雇」という。)は予告手当の支給もなく、被告組合の就業規則に定められている解雇事由のいずれにも該当しないから本件解雇は無効である。

また、就業規則に解雇制限の定めがあつても民法所定の雇用契約の解約申入れが可能であり、被告組合の本件解雇が右の趣旨であつたとしても、原告は誠実に職務を遂行し、被告組合には人員整理等、原告を解雇すべき特段の必要性も存在しなかつたにもかかわらず、組合長である被告山下が、昭和五二年七月から健康を害して入院治療を余儀なくされ、その間組合長代理として妹尾理事が執務していたところ、組合長職への執着を捨て難く、急遽退院して自己の保身を図るため理事会で強引に原告の参事解任・職員解雇の決議をさせたもので、本件解雇は信義則に反し権利の濫用である。

4  したがつて、原告は、昭和五五年一二月二二日被告組合を停年により退職したことになる。

5  原告が昭和五二年一〇月から昭和五五年一二月までの間に、被告組合から支払を受けることができる給与(給料、賞与、参事手当)及び退職金の額は次のとおりである。

(一) 昭和五二年一〇月分から昭和五三年三月分まで(合計二二八万二二四〇円)

(1) 給料   一一一万三六〇〇円

(基本給月額一八万五六〇〇円の六か月分)

(2) 賞与   一〇四万八六四〇円

イ 年末  六四万九六〇〇円

(基本給の三・五か月分)

ロ 年度末 三九万九〇四〇円

(基本給の二・一五か月分)

(3) 参事手当 一二万円

(月二万円の六か月分)

(二) 昭和五三年四月分から昭和五四年三月分まで(合計四二三万〇三〇〇円)

(1) 給料   二四四万四四〇〇円

(昭和五三年度ベースアツプ率九・八パーセントに基づき前年度の基本給を換算し、百円未満を切り捨てて求めた当年度基本給月額二〇万三七〇〇円の一二か月分)

(2) 賞与   一四二万五九〇〇円

イ 夏期  四六万八五一〇円

(基本給の二・三か月分)

ロ 年末  七一万二九五〇円

(基本給の三・五か月分)

ハ 年度末 二四万四四四〇円

(基本給の一・二か月分)

(3) 参事手当 三六万円

(月額三万円の一二か月分)

(三) 昭和五四年四月分から昭和五五年三月分まで(合計四六〇万六〇〇〇円)

(1) 給料   二六四万円

(昭和五四年度ベースアツプ率八パーセントに基づき前年度の基本給を換算し、端数を切り上げて求めた当年度基本給月額二二万円の一二か月分)

(2) 賞与   一六〇万六〇〇〇円

イ 夏期  五五万円

(基本給の二・五か月分)

ロ 年末  八一万四〇〇〇円

(基本給の三・七か月分)

ハ 年度末 二四万二〇〇〇円

(基本給の一・一か月分)

(3) 参事手当 三六万円

(月額三万円の一二か月分)

(四) 昭和五五年四月分から昭和五五年一二月分まで(合計三八一万七五〇〇円)

(1) 給料   二一二万八五〇〇円

(昭和五五年度ベースアツプ率七・五パーセントに基づき前年度の基本給を換算し、端数を切り上げて求めた当年度基本給月額二三万六五〇〇円の九か月分)

(2) 賞与   一四一万九〇〇〇円

イ 夏期  五四万三九五〇円

(基本給の二・三か月分)

ロ 年末  八七万五〇五〇円

(基本給の三・七か月分)

(3) 参事手当 二七万円

(月額三万円の九か月分)

(五) 退職金 一四一万九〇〇〇円

(職員退職給与規程による)

算出根拠

在職年数六年八月(自昭和四九年五月、至昭和五五年一二月)

基礎金額(退職時月給の八割)

二三六、五〇〇×〇・八=一八九、二〇〇(円)

(1) 満年数六年

一八九、二〇〇×六・五(月)=一、二二九、八〇〇(円)

(2) 端数年八月

一八九、二〇〇×(1.5/12×八)=一八九、二〇〇(円)

(1)+(2)=一、四一九、〇〇〇(円)

以上(一)ないし(五)の合計一六三五万五〇四〇円が原告の受けるべき給与及び退職金である。

6  前述のとおり、被告組合の不当な解雇により原告は精神的損害を受けたが、これを慰藉するには三〇〇万円をもつて相当とする。

7  原告は本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人である弁護士に委任したが、その弁護士費用のうち二〇〇万円を被告組合に負担させるべきである。

よつて、原告は被告組合に対し、給与及び退職金の合計一六三五万五〇四〇円及び不法行為に基づく損害賠償金五〇〇万円の総額二一三五万五〇四〇円、並びにうち二二八万二二四〇円に対する弁済期後である昭和五三年四月一日から、うち四二三万〇三〇〇円に対する同じく昭和五四年四月一日から、うち四六〇万六〇〇〇円に対する同じく昭和五五年四月一日から、うち五二三万六五〇〇円に対する同じく昭和五六年一月一日から、うち五〇〇万円に対する昭和五八年二月二三日付準備書面陳述の翌日である同月二四日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3のうち、被告組合の就業規則に解雇事由を規定した条項があることは認めるが、その余の事実は争う。

3  同4のうち、原告が昭和五五年一二月二二日をもつて停年に達したことは認める。

4  同5ないし7の事実及び主張は争う。

三  被告組合の主張

1  参事の地位の性質

(一) 原告が就任していた参事という職は農業協同組合法(以下「農協法」という。)に定められているとおり、組合の業務につき包括的代理権を有する者で、その地位は商法上の支配人に等しく、組合とは雇用関係にたつ一種の使用人ではあるが、一般職員と異なる法律上の地位にあり、いわば組合の業務執行機関である理事会の補助機関であり、都道府県の副知事と似た性格を有している。

(二) したがつて、農協法四二条二項及びこれを受けた被告組合の定款三四条五号は参事の任免に関する事項は理事会の専決権限に属するものと規定しているが、これは組合の業務執行機関である理事会が参事の職にいる人物を不適任と判断すれば自由に解任することができる趣旨であると解すべきである。けだし、参事は組合の業務執行につき包括的な代理権を有し、組合の具体的な業務を執行する地位にある以上、理事会及びその代表者である組合長との関係は表裏一体の緊密な関係にあり、参事に対し多少の不信感でも抱くととうてい組合の業務執行は円滑にはいかないからである。また、同法四三条が組合員の理事会に対する参事解任の請求権を付与していることも、解任事由を問わない趣旨であることが窺われる。

(三) また、参事が被告組合との間で雇用関係にあることは否定しないが、参事という地位の特殊性から労働基準法(以下「労基法」という。)二〇条の適用はなく、被告組合の就業規則についても解雇事由、解雇予告について定めた同規則三八条、三九条は全く適用されない。

2  解雇手続の履践

被告組合は、昭和五二年九月二〇日緊急理事会を開催し、被告組合の理事の過半数の賛成で原告の参事解任・職員解雇の決議をし、翌二一日原告に参事解任・職員解雇の辞令を交付した。その際、原告に対し一か月分の給料を支払う旨告知したが、原告はその受領を拒絶し、さらに昭和五二年一一月四日付内容証明郵便でその受領を促したが取りに来ず、次いで同月一二日原告宅まで持参したが受領を拒絶され、そのため同月一七日岡山地方法務局に弁済供託した。

したがつて、法律上仮に予告手当を支払う義務があるとしても、被告組合はその義務を履践している。

また、原告の参事就任が民法上の雇用契約と解しても、任期の定めのない雇用契約であるから、解約申入れ後二週間を経過したときに解約となるので、遅くとも昭和五二年一〇月五日をもつて解任・解雇されたものというべきである。

3  解雇理由

原告は被告組合の組合員であつて、昭和四三年五月から昭和四六年五月まで被告組合の監事を、続いて理事に当選して昭和四六年五月から昭和四九年五月まで専務理事として被告組合の業務に携わり、その間参事を空席とし完全に組合を支配し、次期理事に当選することが不可能と判明するや専務理事から参事への天下りを画策してこれに成功し、昭和四九年五月から参事の職についていたが、原告自身は専務理事時代に組合を支配していた時の感覚で理事会、組合長を無視し、独断専行に振舞つたために解任されたもので、原告が参事として不適任と判断された主要な理由は次のとおりである。

(一) 被告組合は理事一四名をもつて理事会を構成し、そのうち被告山下を組合長として選出して常勤とし、参事の直接の上司は被告山下であつたが、原告は組合の婦人部の会合等において公然と「組合長は何も判らん。家に帰つて田んぼの中にほおかむりをしていればよく似合う。」などと同人を侮辱する言動を度々吐き、昭和五二年九月一三日組合長が右言動の真偽を糾したところ、原告は平然と右言動を肯定し、逆に同人に対し「本当のことを言うのがなぜ悪い。」と喰つてかかる有様であつた。

(二) 昭和五二年五月二六日、第二九回被告組合総代会において、昭和五一年利益剰余金処分の配当方法として、組合員に対しては特別配当金として被告組合の売店で使用できる利用券を配布することが議決されたが、原告は右議決を無視し、後日配当漏れのあつた一〇名のうち、自己と親しい高橋清にのみ現金で配当をし、他の九名については放置した。

右の行為は、組合長の承諾も得ずに独断で行われたもので、明白な権限逸脱行為である。

(三) 昭和五二年八月初旬ごろ、被告組合の理事会でカントリーエレベーターの購入の話が持ち上がつたが、原告は、メーカー各社について事前調査をし入札等公平な方法で購入を決定しなければならないのに、そのうちの一社である日本車輛株式会社(以下「日本車輛」という。)に見積りを依頼したうえで、同社に対して理事に商品券や洋酒等の贈り物をするよう指示し、しかも自己との親密度によつて贈り物の値段に高底をつけるよう申し入れ、この事実が一般組合員に発覚し「ミニ・ロツキード事件」として騒がれるに至り、原告の右行為により被告組合の信用は著しく低下させられた。

(四) 被告組合の一般職員約六〇名を直接指揮監督する立場にあつた原告は、一般職員を取り扱う態度が極めて不公平で、自己の気に入つた者を厚遇し他の職員を無視するという行動をとり、被告組合の一般職員の勤労意欲を喪失させ、あまつさえ特定の女子職員をことのほか厚遇し、他職員から半ば公然と両者の醜聞が噂され、職場の綱紀弛緩が著しかつた。

右のうち、(一)ないし(三)は被告組合の就業規則に違反し当然懲戒解雇とされるべき事由である。

4  予備的解任・解雇

(一) 昭和五四年一月一六日、被告組合の組合員である被告大橋ほか三名は、組合員数の一〇分の一以上の署名による別紙一の解任請求理由記載の解任理由を書面で提出して原告の参事解任の請求を被告組合に申し立てた。

(二) 被告組合は、右請求に基づく参事解任の可否を審議するための理事会を同年一月二九日開催する旨の通知を同月二〇日付で各理事に発送するとともに、原告に対し解任請求理由書を交付し、原告に弁明書提出の督促及び右理事会開催の通知を発し、原告は同月二〇日これを受領した。

(三) 同月二九日、被告組合理事会において、原告の右請求に基づく参事解任の可否につき協議した結果、被告組合の理事の過半数により再度原告の参事解任の決議をした。

(四) 被告組合は、右理事会の決議の結果を同月三一日付で原告に通知した。

したがつて、仮に昭和五二年九月二〇日付の原告の参事解任・職員解雇が無効であつたとしても、右の農協法四三条による組合員からの解任請求に基づき原告は解任・解雇された。

四  被告組合の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告組合の主張1は争う。

被告組合の主張は役員の地位を混同したものであつて、参事を副知事の地位にたとえるのは比喩として適切ではない。参事は組合において重要な地位を占めているが、その法律上の身分はいわゆる使用人であり、このことは農協法三二条の文理及び被告組合の就業規則から明らかであり、したがつて参事は労基法の適用を受ける。

そして、参事と組合との雇用契約は、職員として契約し、そのうえで参事という役に補したのではなく、あくまで法律上の存在である参事としての雇用契約でありその身分の分解はあり得ない。

しかして、参事の解任権が理事会にあるにせよ、解雇については被告組合が自ら定めた就業規則にいわゆる解雇制限があり、右解雇制限を無視した解雇処分は違法であつて、雇用関係は終了しない。

2  同2のうち、九月二一日に原告に予告手当の支払を告知したが受領を拒絶されたとの事実は否認し、その余の事実は認めるが、その法的主張は争う。

原告の解雇は予告手当の支給を伴わない即時解雇であり、原告が法的手段に訴えたことから被告組合において予告手当支給の問題があることにはじめて気付き内容証明郵便を発したに過ぎない。

3  (一) 同3のうち、原告の経歴自体は認めるが、その事情は否認する。

(二) 同3の解雇の理由(一)の事実は否認する。組合長が自己の風評を気に病む性格なので、原告が悪口を言われるのが嫌なら組合長をやめてほおかむりをして孫のお守りでもすれば何も言われない、との趣旨の話をしたことを曲解したものに過ぎない。

(三) 同3の解雇の理由(二)のうち、高橋清にのみ現金で配当し他の九名は無視したとの点は否認する。特別配当の経過は次のとおりである。

すなわち、総代会の結果一五七三万六三一八円が組合員に特別配当されることになり、配当額は各組合員が被告組合から購入した各商品の金額に応じ、これに配当率を乗じて被告組合の売店で通用する利用券を配付するという方法をとつたところ、後日処分案金額の計上漏れが発見され、原告はこれについて被告山下に指示を仰いだところ、利用券を追加発行することになつた。ところが、昭和五二年六月下旬ごろさらに高橋清組合員から配当漏れの申告があり、調査したところそのとおりであつたので、配当額が一万一六〇〇円と僅少であつたため現金で支払うこととした。そして後日、原告は組合長の被告山下に右の経過を報告し、さらに他の確認調査を職員に指示した。その結果、他に配当漏れが九件出たと聞いているが、原告の解雇処分のため確認はしていない。

以上のとおりであつて、総代会に上程した剰余金処分案の計上ミスの処理の問題であり、わずか一万円余りのことで再度総代会を招集するまでもなく、次回の総代会で追認を受ければ足りることである。そして、右支出は収支計画書のうち事業外費用の雑損失又は事業管理費として計上されている金額から支出されたことになるが、右各勘定は参事の決定権限内にある。

したがつて、前記の現金配当は参事の決定権限内の妥当な処置である。

(四) 同3の解雇の理由(三)の事実は否認する。昭和五二年六月三日には日本車輛の施行した備南農協及び長船町農協の両施設を役員が視察したうえ、原告は同年九月には異なるメーカーの施設が設置されている滋賀県内の数か所の農協を視察する予定であつた。また、日本車輛に対しては組合長である被告山下が自ら被告組合に呼び施設設置計画を話していた。

(五) 同3の解雇の理由(四)の事実は否認する。

4  同4のうち、(二)(四)の事実は認めるが、(一)(三)の事実は知らない。

右の組合員の参事解任の同意の取りまとめは、組合長の被告山下及び理事の被告馬塩の策謀により本件訴訟対策の一環として行われたもので、解任請求理由は昭和五二年の解任事由として被告組合が主張しているものと同一であつてすべて虚偽であり、被告山下らはこれらの虚偽事実を文書にして組合員全員にあたかも真実であるかの如く宣伝して同意を取りまとめた。

したがつて、本件解雇で争点となつている虚偽事実を前提とした解任請求理由に基づく一般組合員の同意、さらには右解任請求理由による理事会の解任決議は無効である。

(昭和五六年(ワ)第五九七号事件)

一  請求原因

1  被告組合は、農協法一条に定める事項を目的として設立された組合であり、原告は昭和四八年一二月当時、被告組合の専務理事として組合長を補佐し、組合の業務を処理する地位に就いていた。

2  被告組合においては、理事の報酬は、定款等により組合長の諮問機関である役員報酬審議会の答申に基づき、組合長が議案を総代会に提出し、その決議により決定されることとなつていた(定款四三条一項七号、四六条、五五条、役員報酬審議会規定二条)。

3  しかるに、原告は、専務理事という地位を利用して、前記所定の手続を経ずに不法に役員報酬を得ようと画策し、昭和四八年一二月一八日ごろ、「理事会の要望による」と称して、被告組合会計係員をして不動産斡旋に対する謝礼という名目で二八万円の出金簿票を起票させ、そのころ、同額の金員の交付を受けて着服し、被告組合に右同額の損害を被らせた。

よつて、被告組合は原告に対し、主位的に不法行為に基づく損害賠償として二八万円及びこれに対する不法行為時である昭和四八年一二月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、予備的に不当利得返還請求権に基づき利得金二八万円及び原告は悪意の受益者であるからこれに対する利得日である前同日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による利息の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3のうち、原告が昭和四八年一二月一八日ごろ二八万円の給付を受けた事実は認めるが、その余は争う。右二八万円は、昭和四八年一〇月の組合理事会において、同年度の不動産取引に関する組合費用から原告に支給する旨の決議がなされ、右決議に基づき佃組合長から支給されたものである。

三  抗弁(時効)

1  本件二八万円の支給については事前に理事会の決議があり、その支給日である昭和四八年一二月一八日から三年が経過している。

2  原告は、本訴において右の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を援用する。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実中、1は争う。

(昭和五五年(ワ)第四〇四号事件)

一  請求原因

1  原告は興除農業協同組合(以下、単に「組合」という。)の参事の地位にあつたが、昭和五二年九月二一日、組合から解雇の意思表示を受けたものであり、右解雇処分が無効であることを理由に組合を相手に地位確認等請求訴訟を提起(岡山地方裁判所昭和五三年(ワ)第一一五号事件)し、審理を続けた。

2  右解雇は昭和五二年九月二〇日開催の組合の理事会決議によりされたものであるところ、組合は右訴訟において右理事会で審議されていない事実を多数主張したが、その概略は次のとおりである。

(一) 原告が「組合長は何もわからん。家に帰つて田んぼの中にほおかむりをしていればよく似合う(案山子の意味)。」と言つて組合長を侮辱した。

(二) 組合の特別配当金に関する利用券につき、原告が独断で組合長の承認も得ずに一名だけに対して現金払をした。

(三) 組合のカントリー・エレベーター新規発注に関し、原告が取扱業者の日本車輛に対し組合理事に商品券又は洋酒を配付するよう指示し、「ミニ・ロツキード事件」として騒がれた。

(四) 原告が組合の一般職員処遇について不公平な取扱いをした。

以上のとおりであるが、右はいずれも虚偽の事実であるか又は参事の解雇事由には当たらない。

3  被告山下は組合の組合長、被告馬塩は組合の理事で前記参事解任の審議をした理事会でも主導的な立場をとり、訴訟進行についても積極的に関与しており、被告大橋は組合に作られた訴訟対策委員会の委員長である。

4  被告山下、同馬塩、同大橋は、前記訴訟において原告の解雇事由がないことが明らかになつてきたためその進行に不安を感じ、全く新たな解雇事由を追加するため農協法四三条一項による参事解任請求の方法を思いついた。そこで、総組合員数の一〇分の一の同意を得るべく、別紙一の解任請求理由を列挙した「参事解任請求申立書」を作成させ、これを岡山市曾根、東畦、西畦、内尾の各地区に居住する組合員(総数一一四六名)に示させ、右解任請求理由列挙の各事実が真実であると誤信した組合員四〇一名の署名を集めたが、右に列挙された事実はいずれも虚偽の事実である。

5  右4の被告山下、同馬塩、同大橋の共同不法行為により原告はその名誉を著しく毀損され、これにより原告が被つた精神的損害を慰藉するには二〇〇万円が相当であり、さらに名誉回復の手段として被告らに請求の趣旨記載の謝罪広告を掲載させることが必要である。よつて、原告は被告らに対し、名誉毀損の不法行為の損害賠償として二〇〇万円及びこれに対する遅延損害金として不法行為後で訴状送達の日の翌日である、被告山下、同大橋については昭和五五年六月一九日から、被告馬塩については同月二〇日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の支払及びこれと共に名誉を回復するに適当な処分として請求の趣旨記載のとおりの謝罪広告の掲載を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、(一)ないし(四)の解雇事由を主張したことは認めるが、その余の事実は否認する。右事由はいずれも真実である。

3  同3のうち、被告らの地位については認めるが、その余の事実は知らない。

4  同4のうち、被告大橋らが別紙一の解任請求理由を記載した「参事解任請求申立書」を作成した事実、右申立書に基づき組合員の署名を集めた事実(但し、署名総数は四二七名。無効二六名。)は認めるが、被告山下、同馬塩が右署名運動に関与したとする点、別紙一の各事実が虚偽であるとの主張は否認する。また、右署名運動が訴訟対策委員会発足後その主導のもとに行われたとの点も否認する。被告大橋ほか数名の組合員は、組合と原告との紛争による組合事務の停滞を重くみて昭和五三年一二月ごろから組合の合理的運営の回復を目的として署名運動を始めたのであり、その後昭和五四年五月の第三一回総代会で訴訟対策委員会が発足し、被告大橋がその委員長に選任されたに過ぎない。

三  被告らの主張

1  別紙一の解任請求理由の各事実はいずれも真実であり、被告山下、同馬塩が理事会で右事実を述べたとしても、それは参事解任という議題審議のための不可欠な内容をなすものであり、また総代会において述べたとしても、それは組合の正常化という議事進行の過程でその実態を明らかにするため不可欠の要素であり、いずれも公共の利害に関する事実であり、その摘示が専ら公益を図る目的でされたものであるから違法性を欠き不法行為は成立しない。

2  被告大橋らが摘示した別紙一の解任請求理由の事実はいずれも真実であり、これらは組合の合理的運営を阻害し、また公共の利害に関する事実である。

さらに被告大橋の右各事実の摘示行為は組合の合理的運営を目的とするものであり、それは専ら公益を図るために出たものである。したがつて、被告大橋の行為に違法性はなく不法行為は成立しない。

第三証拠〈省略〉

理由

第一昭和五三年(ワ)第一一五号事件について

一  原告が昭和四九年五月に被告組合に参事として雇用され、以後同組合に勤務していたところ、昭和五二年九月二〇日開催された緊急理事会において被告組合の理事の過半数の賛成で原告の参事解任決議がなされ、翌二一日原告に対し参事解任・職員解雇の辞令が交付されたことは、当事者間に争いがない。

そして、農協法四二条二項には「参事の選任及び解任は、理事の過半数によりこれを決する。」と規定されているから、原告の参事解任については同法上は適法な手続によりされたものであるということができる。

二  ところで、原告は、農協法上の参事は組合で重要な地位を占めているが、その法律上の身分は使用人であり労基法の適用を受けるものであるところ、原告の場合には、被告組合の職員として雇用されそのうえで参事という職に補されたのではなく、参事という職務上の地位を特定した雇用契約関係にあつたもので参事という職と職員たる地位は不可分であり、しかも参事を含めた使用人に対する被告組合の就業規則には解雇事由が制限列挙されているのであるから、原告に就業規則上の解雇事由が存しない限り参事解任及び職員解雇はなし得ないものと解すべきである、と主張する。

そして、成立に争いのない甲第二号証によると、被告組合の就業規則には次の各規定が存する。

第三条 (職員の定義)

この規則において職員とは、組合より一定の給与を受け、常時勤務に服する参事、会計主任、その他職員をいう。

第三八条 (解雇)

次の各号の一に該当する場合は解雇する。

1  身体又は精神に故障があり、職務に堪えられない場合

2  自己の都合により、欠勤引続き三ケ月以上に及んだ場合

3  止むを得ない事業上の都合により勤務を要しない場合

4  懲戒処分により、解雇と決定した場合

第三九条 (解雇予告)

前条の規程による解雇は三〇日前に予告し又は三〇日分の給料を支給してこれを行なう。但し、天災地変、その他止むを得ない事由のため事業の継続が不可能となつた場合、又は職員の責に帰すべき事由によつて、行政庁の認定を経て解雇する場合においてはこの限りでない。

第六一条 (懲戒の事由)

職員は次の各号の一に該当する場合は、理事会において審議の上これを懲戒する。

1  経歴を詐り又は詐術を用いて雇用された場合

2  法律上の罪を犯し、刑に処せられた場合

3  正当な事由なく、しばしば遅刻、早退又は無断欠勤した場合

4  許可なく組合の物品を持ち出し又は持ち出そうとした場合

5  故意又は重大な過失により、組合の設備又は機械器具を破壊した場合

6  この規則に違反する行為があつた場合

7  その他前各号に準ずる程度の不都合の行為があつた場合

第六二条 (懲戒の種類)

前条の懲戒処分は次の方法によつて行なう。

1  譴責

2  減給

3  始末書

4  休職

5  解雇

前項第二号の減給は、その月総額の一〇分の一以内においてこれを定める。

三  しかしながら、農協法上の参事は農業協同組合の使用人ではあるが、商法上の支配人と同様の包括的かつ定型的な代理権を有し、その選任及び終任は登記事項とされる等、組合において重要な地位を占める役職であつて、農協法が特にその選任及び解任につき規定を設けているのであるから、参事の解任は農協法の規定に基づいてされるべきものであつて、参事という職務上の地位の喪失事由は一般的な組合の職員たる地位、すなわち雇用関係の終了事由とは当然に区別されるべきものである。

それ故、一般の職員の中から参事に登用された者が参事を解任された場合に直ちに職員たる身分も喪失するものではないことや、参事解任のためには職員解雇の事由が必要なものではないことはいうまでもなく、原告が主張するように、参事としての職務上の地位を特定した雇用関係にあるからといつて、特に参事解任の要件が加重され組合の参事解任権が制限される合理的な理由はないから、参事解任につきその一般的な要件のほかに組合の一職員としての解雇事由までをも必要とはしないというべきである。したがつて、原告が主張するように参事という職務上の地位を特定した雇用関係にあつては、参事解任と同時に就業規則所定の解雇事由の該当性を俟たずして条理上当然に雇用関係も終了させることができるものと解されるのみならず、仮に就業規則の適用があるにせよ、参事という地位を特定した雇用契約である場合には、参事解任によつて参事より下位の職種に配置転換をしなければならない義務を組合が負うものではないから、参事解任は、解雇事由を定めた就業規則三八条三号の「止むを得ない事業上の都合により勤務を要しない場合」に該当するものというべく、仮にそうでないとしても右事由に準ずるものとして、解雇するにつき正当な事由があるというべきである。

したがつて、原告の前記主張は理由がない。

四  次に、原告は、本件の参事解任は権利の濫用であり、信義則に反し無効である、と主張する。

しかしながら、前述のとおり、農協法上の参事は商法上の支配人と同様の包括的かつ定型的な代理権を有しており、その事務所における組合の事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し、その代理権につき制限を加えても善意の第三者に対抗できないこととされているほか、その選任、終任は登記事項とされている(農協法四二条三項、商法三八条一項等)のであり、農協法がかような広範な権限を有する参事という制度を設けた趣旨は、組合の理事を農民である組合員から選出することを原則としたことから、経営上有能な人材を得て、理事を補佐し組合の業務を執行する役割を果たさせようとしたものと解され、このような地位にある参事は組合の職員であつて組合とは雇用関係にあるものの、右のような広範な権限は組合との高度な信頼関係が前提とされていることからその地位も他の一般の組合職員とは異なつているものということができる。

そして、同法は前述のように参事の解任については、その解任事由につきなんら規定を設けることなく単に理事の過半数でこれを決するものとし(四二条二項)、一般の組合員にも参事解任の請求権を付与している(四三条)のであるから、右各規定は、単に解任の手続を定めたものにとどまるものではなく、理事の過半数の信任を得られなくなつたこと自体が組合との高度な信頼関係に基礎を置く参事という職務上の地位にあることの適格性が失われたことを意味するものとして、理事の過半数の同意のみを解任の実体的な要件とする趣旨で規定されているものと解するのが相当であり、右の要件さえ満たせば、当該参事について解任を正当化するような非違行為等の解任事由が実際に存したか否かを問うまでもなく、解任は有効と判断されるべきであり解任決議は必ずしも参事の解任事由を認定したうえでされる必要はなく、また、各理事が解任を可とするに至つた意思形成過程について、その合理性の有無等につき問題にすることもその性質上できないものといわざるを得ない。

したがつて、原告が主張するような参事解任権の濫用は、組合の組織運営とは全く無関係な私的報復などの動機によつてされたというような法が理事に解任権を付与した趣旨に惇る例外的な場合にのみ問題とされるに過ぎないものというべきであるが、本件解任については右のような事情の具体的な主張立証は存しない。

そこで、本件について原告が参事を解任されるに至つた事情をみるに、成立に争いのない甲第一号証、第一〇号証の一ないし三、第一一号証、証人田口忠彦の証言により真正に成立したものと認められる乙第五、第六号証、証人馬塩滋臣、同佃精一、同妹尾照秋、同道久勝已の各証言、原告及び被告組合代表者(第一回、一部)各本人尋問の結果を総合すると、次のとおりであると認められる。

1  被告組合では、山下役平が昭和五〇年五月以来理事の互選により組合長に就任して組合の業務を統括し、原告は昭和四九年五月以来引き続き参事として被告組合に勤務し、組合長の下でその職務に従事していたところ、昭和五二年七月一六日に山下組合長が脳塞栓で倒れ入院したため、同人の職務を代行するため妹尾照秋理事が組合長代理に就任した。その後山下組合長は同年八月中旬に退院し自宅で療養していたが、九月一日からは組合に出勤し、その職務に復帰した。

2  山下組合長は、自己が入院中、原告が組合長を無能呼ばわりしている旨の噂を耳にして不快に感じていたところ、同年九月九日ごろ、同月一二日の幹事研修会及び八月の一般職員研修についての日本マネージメント協会との契約関係につき疑義が生じたので、九月一二日に業者を同席させて参事である原告に対し組合長の決裁を得ていないとして事実関係を問い正し、翌一三日、さらに原告に対し西日本マネジメント協会との契約書を提出するよう求めるなどしたことから、事前に組合長の了承を得ていた、と主張する原告と口論となり、さらには組合長は原告が言ったとされる組合長の悪口の件を詰問すると、原告はこれにやり返すなどして互いに感情的になり、遂に山下組合長は原告に対し無期限の自宅謹慎を申し渡した。

3  また、これより先、昭和五二年五月に開催された被告組合の総代会において利益剰余金処分の一部として組合の利用高に応じた特別配当を被告組合の利用券を発行する方法ですることが決議されていた。しかるに同年六月下旬ごろ、組合員の高橋清が道久理事を同行して組合を訪れ、原告に対し、配当漏れがあつた旨苦情を申し入れたところ、その申し出どおり利用高が存し配当漏れになつていたことが判明したので、原告はその利用高に応じた配当金額が一万一六〇〇円と少額であることから他の経費で処理すればよいと考えて現金で配当するよう職員に指示し、同月二一日右金額が高橋に支払われ、原告は右事実を組合長に事後報告した。ところが、利用券による配当に不満を感じていた組合員に右事実が伝わり、一部の者だけに現金で配当したとして組合内部で次第に問題化するに至つた。

4  山下組合長は、原告のした右の現金配当の件が次第に問題化していたことや、原告が組合長に反抗するかのような態度を示したことから、もはや原告を解任するほかはないと考え、同年九月一六日に緊急理事会を招集し、職員研修の件と組合長誹謗の件及びこれを理由に原告を自宅謹慎させたことを説明し、原告の参事解任を提案するとともに、現金配当は参事の越権行為であるとして、参事権限で右配当が可能なのか理事会で直ちに結論を出すよう迫つた。これに対し、各理事は原告の弁明も聞き、長時間討議したが、現金配当については意見が分かれ白黒をつけるべき問題ではないとする考えも強く、原告を組合長が自宅謹慎にしたことについても批判が出され、組合長に対しても反省を求めるため自宅で謹慎すべきであるとする意見も出て、結論を持ち越した。

5  その後、右理事会を収拾するため、同月二〇日再び理事会が開かれ、組合長が議長となり、先の現金配当については違法との結論をまとめ、さらに一六日の理事会での説明に付加して別紙一の解任請求理由の三記載の準低温倉庫ダクト改修の件を説明し、原告を参事として信任できず、このままで組合長としての職務を続けることはできないとして、参事解任の同意を強く求め、これに馬塩理事らが同調した。これに対し、他の理事から参事に反省を求め組合長との協調を試みるべきであるとか、事実関係をさらに調査すべきであるとかの現段階での表決に反対する意見も出たものの、議長である組合長がこれを制して採決にはいり、解任賛成八名、反対六名で参事解任の動議を可決した。

以上のとおり認められ、被告組合代表者本人(第一回)の供述中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし措信し難い。

そうすると、原告が参事を解任された理由は、直接の上司たる組合長との意見、感情の対立が生じ、容易に修復できないような状況に立ち至つていたことから、組合の組織運営を円滑にし、その業務執行が正常にされるようにするためには参事を解任する必要があると判断されたこと、及び理事から互選されて組合の日常的業務を統括する立場にある組合長がこれを補佐する地位にある原告を信任できないと考え、他の理事も組合長の意見に従い原告を参事として信任できないと判断したことにあると認められるので、組合長が理事会において原告について指摘した個々の事実が果たして真実であつたか否かを判断するまでもなく、原告の解任は前述した参事の地位、性格に照らし組織運営上の都合による相当な理由によるものであるということができる。

したがつて、原告の権利濫用、信義則違反の主張は採用できず、原告は昭和五二年九月二〇日の理事会において解任決議がされたことにより被告組合の参事たる地位を失つたものということができる。

五  続いて、以上のとおり、有効に原告の参事解任がされた場合、被告組合との雇用関係が終了するか否かにつき検討するに、前記三で述べたように、一般的には参事を解任されたことにより雇用関係は当然に終了するものではないが、農協法が参事という制度を設けた趣旨からすると、参事以外の一般的な職員の役職に就くことの予定されていない、参事という職務上の地位を特定した雇用関係であるような場合には、参事解任は同時に雇用関係をも終了させ得る事由になるというべきである。

そこで、原告の場合につき検討するに、前記四に掲記した各証拠によると、次の事実が認められる。

1  原告は、興除地区内で農業を営んでいる被告組合の正組合員であり、昭和四三年五月一三日から三年間同組合の監事を務め、さらに昭和四六年五月一三日から三年間は専務理事となり組合長を補佐し組合の業務を処理していた。そして、右任期途中で被告組合では杉原参事が定年退職したが、その後は参事は空席のままであつた。

2  昭和四九年初めごろ、原告は同年五月からの任期の理事には出身部落の西畦部落から立候補しないことを決めたが、原告が長期間被告組合の業務に従事し、農協業務にも精通しており有能であるとの評判も高かつたため、特に当時の佃組合長が原告を参事にするよう働きかけ、同年四月に開催された理事会で、同年五月一三日から原告を被告組合の参事に選任する旨の決議が出席理事全員の賛成でされ、原告は以後も引き続き被告組合において参事として組合長を補佐しその業務に従事してきた。

以上のとおり認められ、右事実に照らすと、原告は被告組合の専務理事という組合長に次ぐ地位の役員からその手腕を買われて参事に選任された者で、従前の地位や選任の経緯からして、参事を解任された後においてもなお職員の地位にとどまることは全く予定していない、参事という地位を特定した雇用関係にあつたものであると認められる。

そうすると、原告の参事解任により当然に被告組合は原告との雇用関係をも終了させることができるものというべく、また前記三で述べたとおり、参事解任は原告については解雇事由を定めた就業規則三八条三号の「止むを得ない事業上の都合により勤務を要しない場合」に該当し、又はこれに準ずるものとして正当な解雇理由になるものと解される。

六  最後に、労基法二〇条所定の解雇予告手続の点につき判断する。

原告の場合は被告組合の参事という地位を解任されたことに伴う解雇であるところ、労基法二〇条は労働者の保護のための規定であり、参事は一般職員とは地位は異なるものの労務を提供して賃金を得ている点においては他の職員となんら変わることなく、参事職にあつた者に同法条を適用しても解任を実質的に制約するものではないから、懲戒解雇ではないことが明らかな原告についても解雇予告制度の適用があるというべきである。

そこで判断するに、昭和五二年九月二一日、被告組合から原告に対し参事解任・職員解雇の辞令を交付したことは当事者間に争いがないが、その際原告に対し予告手当を支給する旨告知した、との被告組合の主張についてはこれを認め得る証拠は存せず、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、被告組合は原告を解雇するに当たり解雇予告手当については全く念頭になく、即時解雇を告知したものであると推認される。

しかしながら、被告組合が、昭和五二年一一月四日付内容証明郵便で解雇予告手当の受領を促し、次いで同月一二日原告宅にこれを持参したが受領を拒絶され、同月一七日予告手当相当分の金員を弁済供託したことは当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨によると、右の予告手当支給の手続は、原告が同年一〇月に、解任決議をした理事会の録音テープ等の証拠保全の申立をし、その決定が同年一一月初めごろ被告組合に送達され、原告が解任を争う姿勢を明らかにしたため、解雇手続の不備に気付いてはじめてされたものであると推認される。

そうすると、本件解雇は即時解雇としては効力を生じないが、被告組合が即時解雇にあくまで固執する態度を示しているとまでは認め難いので、原告は解雇の告知を受けた日から三〇日を経過した一〇月二一日をもつて被告組合との雇用関係も終了したものといわなければならない。したがつて、右期間の賃金請求権は、同年一一月一二日に予告手当相当分として原告に弁済の提供があつたもので、その後弁済供託がされているから、右賃金相当分につき有効な弁済供託があつたものとしてこれを被告組合に請求することはできないこととなる。

七  以上のとおりであつて、原告の参事解任及び職員解雇を無効とする理由はないから、これを無効であるとして雇用関係の継続を前提とした原告の給与及び退職金の請求は理由がなく(なお、解雇の効力が生じた昭和五二年一〇月二一日までの賃金請求が弁済供託により失当であることは前述のとおりである。)、また右の解任・解雇が違法であることを前提とする慰籍料及び弁護士費用の請求も失当であるというべきである(なお、前述したとおり、解雇手続に労基法に違反する点があつたことは明らかであるが、その一事をもつて慰籍料の請求を肯定する程度の精神的損害を与えたものとは到底認め難い。)。

第二昭和五六年(ワ)第五九七号事件について

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがなく、原告が昭和四八年一二月一八日ごろ現金二八万円を被告組合から受領したこと自体も当事者間に争いがない。

二  ところで、右金員については、成立に争いのない乙第二二号証及び原告本人尋問の結果によると、昭和四八年一二月一八日出金伝票上は「不動産斡旋に対する謝礼(理事会の要望に依る)」という名目で、科目としては宅建事業費の中から支出されているが、その実質は、当時被告組合が原告を中心として組合員の土地を東和物産株式会社へ売り渡す仲介業務を行い相当の収益を上げていたことから、特別賞与の性格を持つものとして基本給与の二か月分相当額を原告に支給したものであることが認められる(右認定に反する被告組合代表者((第一回))の供述部分は措信し難い)。

三  ところで、原告は、右金員につき、昭和四八年一〇月の組合理事会において原告に支給する旨の決議がされ、その決議に基づき支給されたものである、と主張するが、被告組合においては、定款により理事の報酬は総代会の決議により決定されることとなつており、右特別報酬について総代会の決議がされたことの主張、立証はないから、原告が専務理事の特別報酬として二八万円を受領したことはたとえ理事会に図つていたとしても違法であるといわざるを得ない。

したがつて、原告は右受領金員に相当する額を不法行為に基づく損害賠償金として被告組合に支払うべき責任がある。

そこで、時効の抗弁につき判断するに、本件反訴の提起の時(昭和五六年八月二五日であることが記録上明らかである。)には、既に右二八万円の支給日である昭和四八年一二月一八日から三年を経過しているから、時効中断の主張のない本件においては、主位的請求原因である右損害賠償請求権は時効により消滅したものというべきところ、原告が本訴において右時効を援用したことは当裁判所に顕著であるから、原告の右抗弁は理由がある。

四  次に、予備的請求原因である不当利得返還請求権につき判断するに、右金員は違法な手続で支出されたものであるから、結局法律上の原因がないものであるところ、その利得額について、原告本人の供述中には受領した金員のうち一五万円は被告組合の宅建部の職員及び山下組合長を含めた旅行の費用に費消したとの供述部分が存するが、被告組合代表者本人の尋問(第二回)の結果によると右旅行が実際に行われたことは認められるものの、原告がその費用のうち一五万円を拠出したことを裏付けるに足る証拠が他に存しないので、前記の原告本人の供述部分はたやすく措信し難く、したがつて原告の利得額は受領額である二八万円と認めるのが相当である。

そして、原告が当時専務理事の立場にあつたことや、右の二八万円も宅建事業費の科目から支出されていることなどから、原告は総代会の決議なくして役員報酬を受領することはできないことを知つていたと推認すべきであるから、右金員を受領した昭和四八年一二月一八日から悪意の受益者として利得額にその支払ずみまでの年五分の割合による利息を付加して被告組合に返還すべき義務があるというべきである。

五  以上のとおりであつて、被告組合の反訴請求は予備的請求につき理由がある。

第三昭和五五年(ワ)第四〇四号事件について

一  請求原因事実のうち、被告大橋らが別紙一の解任請求理由を記載した参事解任申立書を作成し、この申立書に基づき組合員の署名を集めたことは、当事者間に争いがない。

二  いずれも成立に争いのない甲第二〇号証、乙第一〇ないし第一二、第二三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証、証人田口忠彦の証言により真正に成立したものと認められる乙第九、第一三号証、証人妹尾照秋、同大橋正昇(一部)、同臼本三雄の各証言を総合すると、参事解任請求については次のような経緯が認められる。

1  前記のとおり、昭和五二年九月二〇日に原告の参事解任の決議がされたが、原告はその効力を争い裁判所に地位保全の仮処分申請をし、これが一部認容され、原告は組合の職員としての地位を保全され、組合は原告に対し給料を引き続き支払うことを余儀なくされた。

2  原告の参事解任の後、右のような仮処分決定が出されたこともあつて、組合の役員間では組合長を支持するグループと原告を支持するグループの対立が激しくなり、理事会の運営も困難となり、組合の業務運営にも支障が出ていたが、翌年の第三〇回総代会では組合長を支持するグループが主導権を握り、原告の地位確認訴訟を取り下げさせ、組合の運営を正常化するために努力を求める旨の決議が採択された。

3  しかしながら、その後も理事会の内部で対立が続き、また原告が仮処分決定に基づき引き続き給与の支給を受けていたので、地区内の町内会長をしていた被告大橋、町内会関係者の臼本三雄ら及び組合の理事の被告山下、同馬塩らが中心となり訴訟対策及び組合の内部対策として組合員の請求権を行使して再度原告を解任しようと考え、数度の会合で解任請求の理由を検討し、参事解任請求申立書を作成したうえ、地区内のほぼ全域の組合員に対してこれを手分けして持参するなどしてその申立書への署名を集め、昭和五四年一月一六日、臼本ほか四名が代表者となり、組合員四〇一名の連署をもつて原告の参事解任を請求した。

4  被告山下は、これを受けて同月二〇日に組合の理事会を開催し、同理事会で再び原告の参事解任の決議がされた。

以上のとおり認められ、被告山下は本件解任請求には関与していない旨の証人大橋正昇の証言及び被告組合代表者本人(第一回)の供述部分はたやすく措信し難い。

三  そして、別紙一の解任請求理由は、原告が専務理事又は参事の地位にあつた当時に様々な非違行為をして、組合を私物化した旨の事実が列記されているものであるから、これを組合の各地区内のほぼ全域の組合員に閲読させて署名を集めたことにより原告の名誉が毀損されたことは明らかであり、この申立書の作成、署名の取りまとめを共同して実行した被告山下、同馬塩、同大橋は右行為につき連帯して責任を負うものというべきである。

しかしながら、一方で右の被告山下らの行為は農協法で組合員に付与されている参事解任請求権の行使であり、解任請求理由に記載された各事実は原告が参事として組合の業務に従事するにはふさわしくない事由であるから、たとえそれを摘示することにより原告の名誉が毀損された場合であつても、それらの事実につき真実の証明があるか又はその証明がなくとも被告らにおいてその行為の当時それらを真実であると信ずるにつき相当の理由があつた場合には、正当な権利の行使として違法ではないというべきである。

四  そこで、次に別紙一の解任請求理由記載の一ないし一〇の各事実につき、右の点を順次判断する。

1  東和物産株式会社への不当融資の件(別紙一の解任請求理由記載の一の事実)

解任請求書によると、東和物産株式会社(以下「東和物産」という。)が県信連(岡山県信用農業協同組合連合会の略称)から融資を受けるに際し、原告が不当融資依頼を行い、かつこれは当時の理事会の承認を得ず独断で行なつたもので、農協法及び定款に違反する、というのである。

しかしながら、成立に争いのない甲第一ないし第三号証、乙第一七号証の一ないし四、第一八、第一九、第二一号証、証人佃精一の証言及び原告本人尋問の結果によると、組合が県信連に対し東和物産のため融資依頼をし、その交渉には専務理事であつた原告が主として当たり組合長の決裁を得てされていることが認められるが、一方、県信連に対して組合が融資依頼をするにつき理事会の決議が必要であるとする組合の内部規程は存しないうえ、従来からも理事会の議決を経たうえで融資依頼がされるという慣行はなかつたものと認められ(右認定に反する証人馬塩滋臣、同大橋正昇の各証言はいずれも根拠の乏しい憶測に基づくもので措信できない。)、また、現実にも右貸付は県信連が行うもので担保の徴求や融資の可否の決定権は県信連にあり、組合は貸付及び回収についてのいわゆる窓口業務を行うだけで保証責任はなく、却つて県信連から手数料収入が得られ、不測の損害を被る虞れはほとんどなかつたものと認められるのであるから、実質的にも理事会の決議事項とする必要性を認め難い。したがつて、「理事会の承認を得ず独断で行なつた」とし、それが農協法及び定款に違反するかのような記載は、当然理事会に図るべき事項について原告が独断で違法な行為をしたかのような印象を与えるものであつて、事実に反し原告の名誉を毀損するものといわざるを得ない。

もつとも、融資依頼が「不当」であるとする理由は、証人大橋正昇の証言及び弁論の全趣旨によると、他に融資金の使途が東和物産の宅地購入代金の支払いであり組合の事業の目的外の使途であること及び東和物産に対して県信連が直接貸付ができないため東和物産の代表者の子の井上勝民の住民票を組合の地区内に移し同人を組合の準組合員として県信連が同人へ貸付を行うという形式をとつたことの二点であると認められる。しかし、前者の点については、成立に争いのない甲第一五、第一六号証の各一、二、第一八号証の一、乙第二六、第三四、第三五号証及び前掲各証拠によると、昭和四八年ごろ、原告は専務理事、被告山下は監事の地位にあつたが、組合では東和物産が分譲地開発をするために組合員の所有地を買収するに当たり、その媒介業務を積極的に行い相当の収益を上げていたところ、組合の事業は組合の目的に必ずしも沿わない営利事業的色彩の強いものであつたが、組合の役員にはこれに反対して問題とする者はなく、被告山下も右事業の推進に積極的に協力していたこと、前記の貸付金は組合員への売買代金の支払に充てられるものであつたことが認められるのであるから、かような貸付目的の不当性を原告独りの責任に転嫁するかのごとき記載は正当とはいい難い。また、後者の点については、右各証拠によると、右貸付は住友銀行本店の連帯保証があり債権の保全には全く不安がなく、現に全額返済されていることが認められるうえ、本来準組合員としての資格のない者を準組合員として加入させ貸付資格を作出することは確かに違法であるが、かような実質的な員外貸付はこの当時から全国的にかなり広く行われていたものと推測され、しかも本貸付は組合が直接行うものではなく、形式的な準組合員であることは県信連も了知していたと認められることなどを考え合わせると、その不当性はさほど悪質なものではないというべきである。加えて、証人佃精一の証言、原告本人尋問の結果によると、右のような形式は県信連の要請に基づいてされたものであるというのである。

したがつて、以上の認定を総合すると、不当な融資依頼であるとの点は一部事実に沿うがその不当性はさほど強いものではなく、解任請求理由一の記載を全体的にみれば、原告が法律や定款を無視して独断専行で違法性の高い融資依頼を行つたかのような印象を与えるものであつて、正当な事実記載であるとまでは認め難い。

2  役員賞与不当受領の件(同二の事実)

右事実については、そのうち源泉徴収分を支払つていないとする点が誤りであることは証人大橋正昇の証言により明らかであるが、理事会の決議を経ているか否かの点を除くその余の事実については、これが真実であることは昭和五六年(ワ)第五九七号事件の判断として示したとおりである。

ところで、理事会の決議の有無については、確かに成立に争いのない乙第二四、第二六、第三四、第三五号証によると、当時の理事会議事録には専務理事に給与の二か月分を特別に支給する旨の決議がされた旨の記載はなく、翌昭和四九年三月二〇日開催の理事会での討議内容によると、同日の理事会ではじめて役員の特別報酬が提案されているので、前年の昭和四八年一二月には特別報酬の議題はなかつたものと推認され、これに沿う被告代表者本人の供述も存するところである。もつとも、証人大橋正昇、同妹尾照秋の各証言によると、二八万円の支給については理事であつた妹尾照秋、道久勝己らが当時の理事会で了承している旨発言していること、また前掲乙第三号証によると、昭和五三年の総代会でも昭和四八年当時組合長であつた佃精一が同旨の発言をしたことが認められ、さらに前掲甲第二〇号証によると、当時の馬塩理事も同様の記憶がある旨述べている。そして議事録の記載では、一〇月の理事会で山下監事が宅建事業経費が三六万円しか使用されておらずかなり余つているのでその点について収益が上がつていることを考慮して担当者への配慮を検討するよう提案があつたことが記載され、これについて「必要経費は執行部の判断で使わして頂だくことにして担当者の手当については年度末でなんとか考えることでどうか」と議長がはかり了承された旨記されており、右記載の意味は必ずしも判然としないが、執行部が経費を手当に流用することを了承した趣旨にもとれなくもない。加うるに、前掲甲第一六号証の一、二によると、右の宅建事業費は翌年三月三一日までの決算時までに一〇四万六一八二円が支出されたことが認められ、一〇月の理事会までの支出金額と比較すると、その後に手当的性格の支出が宅健事業費からされたことが推認されるところ、右決算について監査に当たつた監事が右の点を問題として指摘された形跡もない。

したがつて、原告への二八万円の支給も理事会において了承されていた可能性も相当高いが、理事会の議事録に明確な記載がなく、当時の役員の記憶も一致せず曖昧であるから、少なくとも被告大橋らにおいて右支出が理事会の決議によらずにされたと信ずるについては相当の理由があつたものといわざるを得ない。

したがつて、解任請求理由二の事実は一部事実に反する部分もあるが、全体的には相当の根拠があつて記載されたもので、これを記載したことに違法性は認められない。

3  準低温倉庫ダクト改修の件(同三の事実)

成立に争いのない甲第一一号証及び原告本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

(一) 組合では、政府の保管米を準低温で保管できる準低温倉庫を県経済連の指定業者である蜂谷工業株式会社(以下「蜂谷工業」という。)の施工で昭和五一年一一月に完成させたが、ダクトの位置が積込作業の障害となる場所にあることが判明し、組合長の指示に基づき原告が蜂谷工業に改修を依頼したところ、蜂谷工業は一棟五〇万円、二棟で合計一〇〇万円とする改修費用の見積書を提出した。

(二) そこで、原告は右見積書を組合長に示して指示を仰いだところ、被告山下は右金額が高額なので大賀工務店にも見積書を提出させるよう指示したので、原告は右指示どおり大賀工務店に伝えた。そして、結局蜂谷工業の予定していた分解工事までを行わなくとも改修が可能であつたため、大賀工務店に改修工事を施工させ、その費用として三万五〇〇〇円を支払つたのみで改修を了した。以上のとおり認められ、証人大橋正昇の証言中の右認定に反する部分は、前掲甲第一一号証に記載されている山下組合長の発言内容に照らし採用し難い。

そして、見積書隠匿の件については、原告自身、蜂谷工業の見積書が一〇〇万円であつたことは争つていないのであつて、原告が右見積書をことさら隠匿する事情も証拠上窺われず、証人大橋正昇の証言中の原告が見積書を隠匿しているとの供述部分は措信し難く、他に隠匿の事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、解任請求理由三記載の事実は見積書隠匿の部分を除けば真実であるが、蜂谷工業が一〇〇万円の見積書を提出したことにつき原告に帰責事由は認められず、原告が蜂谷工業と通謀していたとの証拠もないから、右事実はなんら非難されるべき事由ではなく、この事実が解任の理由とされている以上、右の隠匿の点と合わせて、読む者に対し、原告がわずか三万五〇〇〇円の費用でできる工事につき蜂谷工業と結託して一〇〇万円の見積書を提出させて不当な利益を得ようとしたかのような印象を与えることは否めず、解任請求理由三の事実は原告の名誉を不当に毀損するものであり、違法性を阻却する事由も存しないというべきである。

4  職員研修の無断実施と研修契約書隠匿の件(同四の事実)

右の点については、前掲甲第一〇号証の一、乙第六号証、被告代表者本人尋問(第一、二回)の結果によると、被告山下は、概ね別紙一の解任請求理由記載の事実があり、同被告が一般職員研修が西日本マネジメント協会により行われたのを知つたのは入院中であり、昭和五二年九月の幹部研修は、同被告の組合長への職務復帰後に同協会からの架電により初めて知り、同月一二日にその説明を求めた際には同被告の関知しない組合長の公印の押捺されている契約書の提示を同協会の係員から受けた旨供述している。

一方、原告は、前掲甲第一〇号証の二及び原告本人尋問の結果によると、職員研修について西日本マネジメント協会との契約は、被告山下との協議のうえ決定され、日程等の調整も行い当然同被告の了承の下で進めてきたもので、契約書は正式なものは作成していない旨昭和五二年の解任前から一貫して述べていることが認められ、右両者の言い分は真向から対立しているうえ、他に右事実関係を直接証明できる証拠は存しない。

しかしながら、成立に争いのない甲第一四号証、第一九号証の一、二及び原告本人尋問の結果によると、昭和五一年度の職員研修は外部講師を西日本マネジメント協会に委託し、昭和五二年五月の通常総代会の前にも同協会の関係者が同年度の研修の受注交渉に来ていたこと、同年五月一六日に開催された通常総代会に提出された職場内教育計画案には全体研修を八月に一日間、管理職研修を九月に一日間それぞれ外部講師に委託して実施することがその予定表に明記されていたこと、同協会は総代会の後の五月二七日付で組合に日程の計画、見積の書類を送付していたこと、被告山下が病気で倒れる前の七月一四日に管理職会議があり、そこで一般研修は当初の予定では八月一六日実施であつたのが共済研修との関係で一七日に変更されたが、同被告も右会議に出席していたことが認められ、被告代表者本人尋問においても右各事実を否定する供述は存しない。また、九月一二日に同協会の係員を呼び出し原告を同席させて被告山下が釈明を求め、原告らの説明により一度は無断で原告が契約したものではないことを納得したことも被告代表者の前記の各供述により明らかである。

そうすると、被告山下は自己の記憶について必ずしも十分確信を持つていなかつたことが推認されるうえ、仮に同被告の供述が真実であるとすると、同被告は組合長という立場にあり、翌月には一般研修が行われることを知りながら、外部講師をどこに委託したのか参事に問い合わせるでもなく、また外部委託の準備すら指示せずに放置していたことになり極めて不自然といわざるを得ない。また、前年の研修については特に問題があつたことを認めるに足りる証拠もないので、西日本マネジメント協会へ被告山下の了承の下で引き続き同協会に委託する予定で外部講師と明記した総代会の議案を提出したものと推認することも不合理でなく、その他原告と同被告の供述内容を比較すると、原告の供述に合理性がある点が少なくない。したがつて、原告が無断で契約したとの事実は真実であるとの証明がなく、かつそう信ずべき相当の理由があつたとも認められない。

また、契約書を原告が隠匿しているかのように記載されているが、そもそもこのような契約について正式な契約書を作成するかどうかも疑問であり(被告山下が提示を受けたとする契約書は日程の予定及び見積額を記載した書面である可能性も否定できない。)、西日本マネジメント協会との契約は組合にとつて初めてではないから、前回の契約についてはどのような形式をとつたか調査が可能であるし、また問題の契約についても同協会に問い合わせるなどして調査することが可能なのに、右のような点について調査した形跡すらなく、契約書の存在自体の証明がないので、それを隠匿したとの事実も当然のことながら認められない。

したがつて、隠匿の点についても真実の証明がなく、かつ真実であると信ずるにつき相当の理由がなかつたものといわざるを得ない。

5  日本車輛カントリーエレベーター建設依頼見積り時のミニ・ロツキード事件(同五の事実)

右の解任請求理由の記載事実は、原告が日本車輛と通謀し同社にカントリーエレベーターの発注をして不当な利益を得ようとしたかのような印象を読む者に与えることは一見して明らかであり、原告が背任行為をしようとしたかのような事実を摘示したことにより原告の名誉を毀損したことは多言を要しない。

そこで右記載事実の真実性を検討するに、成立に争いのない甲第一三号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二五号証、証人芳山豊樹、同石部甲の各証言及び原告本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

(一) 組合では昭和五二年五月の総代会で組合員からカントリーエレベーター導入の要望が出され、その設置につき検討することとなり、六月三日に役員のほぼ全員が長船町農業協同組合(以下「長船町農協」という。)に日本車輛が設置したカントリーエレベーターの視察をし、同年七月二二日、再度役員の全員で備南農業協同組合のライスセンター及び長船町農協のカントリーエレベーターを視察したが、右施設はいずれも日本車輛製のものであつた。

(二) ところで、右に先立つ同年五月ごろ、被告山下の知人を通して日本車輛が組合に対しカントリーエレベーターの売込みを図り、同被告や参事に対しセールス活動を行つており、右七月の視察後の会合で日本車輛はカントリーエレベーターの試算表を各役員に配り、カントリーエレベーターの説明会を開き、同月下旬ごろには組合の理事に三〇〇〇円程度のウイスキー一本又は一万円の商品券を中元として送つた。

(三) しかし、右の中元については理事の一部から業者との癒着の懸念から疑義が出され、妹尾組合長代理らが中元品を回収し、これをまとめて日本車輛に返還した。

(四) なお、右各視察に続いて、同年九月下旬には琵琶湖周辺の各農協を回り、他の異なる業者の納入したカントリーエレベーターなどを視察する旅行計画が立てられていた。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、カントリーエレベーターについては同年九月ごろはまだ計画段階であり、八月又は九月の理事会で設置を決定し直ちに業者と契約をかわすような状況ではなかつたから、「組合長の入院中をねらい工作した云々」とする部分は明らかに事実に反する。また、日本車輛が提出した試算表はカントリーエレベーターの導入の可否を決するためにその設置費用を推定するうえで有用であることはいうまでもなく、右の試算表が契約締結に直結するような見積書として提出されたものであるとの証拠はないから、右のような措置が直ちに特定の業者との癒着であつて不公平なものであるとは考えられない。

さらに、原告が中元品を配付させたとの点については、これに沿う証人大橋正昇の証言が存するが、同証言の内容は組合幹部の憶測の伝聞を述べたものに過ぎず信用性に乏しく、また証人馬塩滋臣の証言中、同証人が中元品を組合に返却し原告に事情を問い正したところ、「わしがやつたことだからそれは言つてくれるな。」と答えた旨供述しているが、中元品の内容や価格等からして、特に原告の指示がなくても業者が通常行いやすい範囲のものであることや、原告がそのような言明をするような理由に乏しくその供述内容が不自然であることなどから、右証言は措信し難く、他に原告の指示があつたことを認めるに足りる証拠はない。

してみると、解任請求理由五の事実については真実の証明がなく、かつ真実であると信ずべき相当の理由もなかつたものというべきである。

6  利用高還元金について総代会の決定事項を無視した件(同六の事実)

(一) 現金配当をした事実経過については既に昭和五三年(ワ)第一一五号事件の理由四3で判示したとおりであり、原告の指示で現金配当がされたこと自体は真実である。

(二) ところで、右の理由四掲記の証拠によると、利用高に応じた特別配当は利益剰余金処分の一つであるから、当然総代会の決議事項であり、利用高に応じた配当率を決めその総額につき議決を経たとしても剰余金処分の議決内容はその金額を配当することの議決であるから、利用高の計上漏れがあり本来計上すべき総額が誤つていた場合に、同じ配当率で計上漏れの利用分を配当することは議決を経た配当金総額を超える配当をすることになるので議決に反し違法とならざるを得ない。そして、このことは、利用券で配当しようと税金で配当しようと変わりはない。

したがつて、右のような場合に形式的に適法性を維持しようとすれば、わずかな配当額の増額のために再び総代会を開くか議決を経た配当額総額に応じて配当率を変更し、既に配付した利用券を各組合員から一部回収し再割当を行うしかないが、いずれも現実的な方策とはいえない。

(三) そこで、前記のように原告は配当金が僅少であつたので現金で配当し、他の経費で処理するという便宜的な方法で処理したのであつて、それが特定の組合員を優遇したり自己の利を図る目的で行つたりしたと推認できるような証拠はなく、むしろ、前後の状況を勘案すると、原告は問題の解決方法として適切であると信じて処置をしたものと推測される。

しかしながら、事後的に次期総代会で追認を得れば問題はないとしても、その時点では違法配当であることには変わりがないから、参事が自らの判断のみで処理すべき事項ではなく、当然事前に上司たる被告山下に指示を仰ぐべきであるし、また配当方法も総代会で決まつた正規の方法に準じて行うべきであるのに、同被告に事後報告をしたのみで、しかも現金配当を行つたことは参事の職務の執行として適正を欠いたものであることは否めない。

(四) ところで、別紙一の解任請求理由には、右の配当の件に続いて、原告が違法配当のもみ消し工作をさせてその費用を組合に負担させようとしたかのように記載されており、右もみ消しの事実と合わせて読むと、原告は不正な意図で特定の組合員のみを優遇して現金配当をしたものとの印象を与えることは否定できない。

そして、右のもみ消し工作については、当該事実を組合の職員から聞いたとの証人大橋正昇の証言があるが、右は伝聞であるうえ、当時原告がもみ消し工作をしていたことを窺わせる証拠は他に全くないうえ、原告が費用を組合に請求するよう指示したことについても他にこれを裏付けるなんらの証拠も存せず、右証言は到底措信し難い。したがつて、解任請求理由六の事実については全体としてみると真実の証明がなく、かつ真実であると信ずべき相当の理由もなかつたものといわざるを得ない。

7  組合長侮辱の件(同七の事実)

右の件については、右事実を組合の婦人部長である佐藤初江から聞いた旨の証人塩飽留太、同大橋正昇の各証言及び被告代表本人(第一回)の供述があり、一方、証人妹尾照秋の証言及び原告本人の供述によると、婦人部集会でそのような発言をした事実はないというのであるが、原告本人尋問の結果によると、佐藤初江は既に死亡していることが認められ、今ではその真偽を確かめるすべはないが、右の各証言、供述を総合すると、原告は当時自らが実務能力にたけていることもあつて被告山下の組合長としての識見、指導力にかなり不満を抱いていたことが窺われ、公の発言としてではなくとも、なんらかの会合の折に原告が参加者に右のような組合長についての不満を漏らしたとしてもあながち不自然とはいえないような状況にあつたことや、少なくとも被告山下には原告の発言が噂として耳に届いていたことが認められることからすると、右佐藤から原告の発言内容を聞いたとする前記各証言、供述は無下に排斥できず、右佐藤が虚偽の話をするような事情も見当らないので、原告が婦人部の会合で解任請求理由記載の話をしたとの点は、相当の根拠があつて摘示された事実であるといわざるを得ない。

但し、解任請求理由では、会合での公の発言として述べたかのような印象を与える記載になつているが、右のような形態で発言がされたと認めるまでの証拠はなく、真実は右会合の席で原告が右佐藤に組合長を軽視するような話を漏らした程度に過ぎないとも考えられ、公然と侮辱したものとまではいえず、表現にやや適切さを欠くきらいがあるが、結局、全体としては相当の根拠があつて記載されたものというべきである。

8  職員に対する取扱い不公平の件(同八の事実)

右の件のうち、本文の職員に対する処遇が不公平であつた、との点については、これに沿う証拠として証人田口忠彦、同小野浩道、同塩飽留太の各証言が存するが、右はいずれも具体性に乏しいので、立証不十分というべきである。また、賃金格差の点については、これに沿うかのような証人大橋正昇の証言が存するが、当該職員が勤続年数、勤務成績及び役職等に照らして他の職員と差別されていたか否かは全く明らかでなく、単にベースアツプ分が低いことについて原告に苦情を申し出たらとりあつてもらえなかつたというに過ぎず、不当な差別をしたことの立証とはならない。

さらに、前掲甲第四号証によると、職員の配置、異動及び給与等については組合長に権限があるところ、参事にこれらの事項を決する実質的な権限があつたとしても、職員間に派閥をつくり自己の支配体制を画策するような露骨な人事上の差別を組合長までもが支持又は容認した、と推認できるような証拠も存しない。

したがつて、この件についても真実の証明がなく、かつこれを真実であると信ずべき相当の理由もなかつたものといわざるを得ない。

9  研修用テープを独断で購入し自宅へ持ち帰り私物化した件(同九の事実)

(一) 証人田口忠彦の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第七号証の一ないし三、第八号証の一、二、並びに同証人の証言及び原告本人尋問の結果によると、原告は昭和五二年七月に近代経営指導センターに対し会員加入し、朝礼等に使用するテープを購入して八万四〇〇〇円を支払つたこと、昭和五三年五月二六日に同センターの従業員が組合を訪問し、契約に違反する、と主張して、テープ二本を定期送巻分として九万六〇〇〇円で組合に購入させたことが認められ、また、右の原告の契約締結、テープ購入については原告が事後に組合長に報告した形跡はない。

ところで、右のような朝礼等に使用するテープを参事の権限で購入できるか否かは別として、右のような契約については、その使用目的に照らし当然組合長とも協議して締結の可否を決め契約した後はこれを有効に利用すべきであるのに、そのようなことをした形跡がないのであるから、「独断購入」と批判されてもやむを得ないというべきである。

また、昭和五三年に組合が支払つた九万六〇〇〇円が契約上支払義務が存したか否か疑問であるが、冒頭掲記の各書証の記載のみからは支払義務があつたものと組合において判断してもやむを得ないものと認められる。したがつて、「一八万円もする朝礼用テープ」と記載している部分もやや正確さを欠くが右のように記載したのは相当の理由があるというべきである。

(二) 次に、原告がテープを自宅へ持ち帰り私物化した、との点については、原告本人は、原告が退職扱いされた後に自己の机の抽出等に存した私物と思われる物品を組合職員の手により詰め込まれていたダンボール箱を持ち帰つていたところ、組合からテープの件で連絡があり、ダンボール箱の中を探したら出てきたためこれを組合に持参したのであつて、故意に持ち帰つたのではない、と供述しており、右供述を否定する証拠は存しない。もつとも、本件テープについては、その購入につき組合長に報告したり原告が朝礼でテープを流すなどして活用した形跡はないので、原告が私物化したとの疑惑を第三者が抱き、原告はそれが露見しないよう自宅へ持ち帰つたものと想像することもあながち不自然ではないが、右は単なる憶測の域を出ず、結局、原告の弁解について的確な反証がない以上、テープを自宅へ持ち帰り私物化したとの点については、これを真実であると信ずべき相当の理由がなかつたといわざるを得ない。

10  役職員恐喝、職場秩序の攪乱、就業規則違反の件(同一〇の事実)

(一) まず、「仮処分決定後の、仮職員として復職時、昭和五三年三月一五日午前八時三五分から同九時三〇分まで約一時間或る職員宅に出向きサボタージユした。」と記載されている点については、原告本人尋問の結果によると、原告は昭和五二年九月二一日、参事解任・職員解雇の辞令を交付された後に地位保全の仮処分を申請し、裁判所が参事解任の点は必要性なしと判断し一般職員としての地位の保全とその給与の仮払いを命ずる仮処分決定をしたため、組合では原告を一応職員として復職させ、鶏卵の集配業務に就かせていたが、原告は右のサボタージユをしていたとする時間帯は組合の役員の岡田皎宅へ集卵のため赴いていたというのであり、右供述に反する証拠は全くないので、右記載の事実は真実の証明がなく、かつこれを真実であると信ずべき相当の理由があつたことを窺わせる証拠も存しない。また、「(3)、しばしば無断で勤務場所を放棄しサボタージユしていること。」と記載されている事実についても、証人塩飽留太の証言をもつてしては右事実の証明にならず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、これを真実であると信ずべき相当の理由があつたとも認められない。

(二) 次に、役員婦人に恐喝の電話をしたり、と記載されている点(「婦人」は「夫人」の誤りと思われる。)については、前掲甲第一三号証及び証人大橋正昇の証言によると、理事会の席上右の「恐喝」とあるのは「脅迫」の誤りであると訂正され、これは、原告の参事解任の後に解任に賛成した役員の自宅に原告が架電し応待に出た夫人に対し脅迫的言動をしたことを指す、というのであつて、被告大橋は右の夫人に確認をした、と供述しているが、参事解任の後の架電行為であれば多少興奮して激しい言葉のやりとりがあつたとも推認されるので、右の供述部分は一概に排斥できないが、それが「脅迫」といい得る程度のものであつたか疑問であり、いずれにせよ解任請求理由記載の「恐喝」の行為、すなわち役員の夫人を脅迫して金品を要求した事実は全く認められないから、後に理事会の席上で訂正されても名誉毀損の責は免れない。

(三) さらに、職員に対し威嚇的行動、悪宣伝教唆等職別の紊乱的行為をしている、と記載されている点については、証人大橋正昇の証言中に右に該当するかのような供述が存するのみで、具体的な事実の摘示もこれを証明するに足りる証拠も存しない。

五  以上に認定したところによると、解任請求理由記載の各事実については、その相当部分について真実の証明がなく、かつ被告らにはこれらを真実であると信ずべき相当の理由もなかつたものというべきであるから、被告らは、原告に対し名誉毀損の共同加害者としての責任を負うべきことになる。

そこで、その責任の程度について検討するに、解任請求理由を一読すれば、一般の組合員は原告が専務理事時代から数々の不正行為をして組合を私物化し私利私欲を図つてきたという印象を抱くであろうし、これが興除地区の多数の組合員に閲読されたことにより原告の信用が失墜し、犯罪者であるかのようにさえ見られかねないところであるが、他方、解任請求の理由として記載された事実はすべて根拠がないというものでもないこと、一面では組合員の権利行使としての性格を有していたことなどをも合わせ考慮すると、金銭賠償については被告らに連帯して慰籍料六〇万円の支払をさせるのをもつて相当とすべきである。

そして、原告は、右の金銭賠償の他に新聞への謝罪広告の掲載を求めているが、原告の名誉を毀損する文書は岡山市興除地区という限られた地域で組合員の目にふれたものに過ぎないことや、原告の名誉毀損の程度等をも合わせ考慮すると、本件では金銭賠償の他に謝罪広告の掲載まで認めるべき必要性があるとは解されない。

したがつて、原告の請求は被告らに対し連帯して慰籍料六〇万円及びいずれも不法行為後で本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな請求原因記載の各日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の金員請求及び謝罪広告掲載請求はいずれも失当である。

第四結論

以上の次第であつて、原告の被告組合に対する本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、被告組合の原告に対する反訴請求は理由があるからこれを認容し、原告の被告山下、同馬塩、同大橋に対する請求のうち、金員請求はそれぞれ一部理由があるから主文掲記の限度で認容し、その余の金員請求及び謝罪広告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石嘉孝 安藤宗之 大島隆明)

別紙一、二〈省略〉

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